Reliance
PCE 3.0 は、一つの公理から始まります。
検証地平(Verification Horizon): 仕事は、いかなる単独アクターの検証地平をも越えて継続する。後続アクターは、先行するすべてを再検証できない。
時間、能力、注意、権限のどれをとっても、後続アクターが先行作業のすべてを検証し直すことはできません。これは怠慢ではなく、継続する仕事の構造です。
公理から、次が導かれます。
依拠の定理: 継続する仕事には、再検証なしの依拠が不可避に発生する。
Reliance(依拠) とは、アクターが、目的のために、投影を再検証せずに自らの遷移の前提とすることです。
依拠は次の五つ組で特定されます。
reliance = ( relying actor: 誰が依拠するか relied projection: 何に依拠するか purpose: どの目的のためか warrant: どの進行根拠がそれを正当化するか invalidation: いつ依拠をやめるべきか)依拠が不可避である以上、問題は依拠をなくすことではありません。何に、どの根拠で、いつまで依拠してよいかを統治すること です。Contract、Warrant、Projection は、この統治の機構です。
正当な依拠と不当な依拠
Section titled “正当な依拠と不当な依拠”- 正当な依拠: 目的に適合し、失効していない Warrant(進行根拠)を持つ依拠。
- 不当な依拠: 根拠がない、失効している、または目的外の依拠。
正当性は一度きりの属性ではありません。依拠は適用のたびに、現在の目的と文脈に対して判定されます。書き込み時の根拠は、宣言された適用域までしか届かないからです。
PCE 3.0 の失敗類型は、すべて不当な依拠として読めます。補完の事実化は根拠なき依拠であり、古い承認での統合は失効した根拠への依拠であり、記憶汚染は依拠連鎖への根拠なき混入です。
信頼との区別
Section titled “信頼との区別”Trust(信頼)は態度であり、範囲を持たず、裏切りに開かれています。Reliance(依拠)は行為であり、目的に相対的で、範囲づけられ、撤回できます。
依拠する能力にアクターの種類は関係ありません。コンパイラは不変条件に依拠し、AI は記憶に依拠し、人間は仕様に依拠します。依拠は対称です。ただし、依拠が裏切られたときに責任を引き受けられる者は限られています。責任は非対称です。この組み合わせが Actor モデルの基礎になります。
参照との区別
Section titled “参照との区別”依拠は「使うこと」全般ではありません。読む、検討する、比較の材料にすることは 参照(consult) であり、自由です。再検証なしに遷移の前提として使うことだけが依拠です。
この区別があるから、Context Pool の生の記録や暫定の候補は自由に参照できます。根拠が要るのは、それらを前提に据える瞬間だけです。
依拠の保存則
Section titled “依拠の保存則”再検証は依拠を消しません。移し替えるだけです。
テストを再実行しても、あなたは検証者、実行環境、検証の代表性に依拠しています。検証の検証は無限に遡れないため、依拠の総量は保存されます。
あらゆる検証は、それ自体が後続の依拠する投影である。
この保存則は、「AI が何でも再検証できるなら統治は不要になる」という反論への答えでもあります。検証が安くなるほど、依拠は消えるのではなく、検証系そのものへ移動します。
行為の不可逆性
Section titled “行為の不可逆性”知識は再導出できても、行為は世界に状態をコミットします。
デプロイされたコード、送られた通知、消費された予算は、再導出では取り消せません。だから、知識の再検証がどれだけ安くなっても、行為の昇格は統治の対象であり続けます。
依拠を統治するには、誰が何に依拠しているかを扱える必要があります。
Reliance Graph(依拠グラフ) とは、依拠の五つ組を辺として記録したグラフです。
依拠グラフが必要になる理由は、無効化です。Warrant(進行根拠)は無効化条件を持ちます。条件が成立したとき、その投影に依拠していた後続作業へ影響を伝える必要があります。これを Invalidation Propagation(無効化の伝播) と呼びます。
warrant の無効化条件が成立する -> その投影への依拠の辺をたどる -> 依拠していた後続作業に再判断を要求する依拠グラフのない無効化条件は、発火しても誰にも届かない警報です。
依拠グラフは仕様上の要請であると同時に、実装可能です。追記専用の台帳に由来の辺を記録し、無効化イベントを辺の逆向きにたどって下流を失効させ、接地前の記録と接地後の記録を分離する——この形の台帳で実現できます。
依拠は、最低限次を記録します。
- relying actor: 依拠するアクターまたは作業
- relied projection: 依拠する投影
- purpose: 依拠の目的
- warrant reference: 正当化する進行根拠への参照
- invalidation subscription: 無効化をどう受け取るか
すべての依拠を記録する必要はありません。記録すべきは、Warrant Calibration が重いと判定する依拠、つまり裏切られたときの損失が大きい依拠です。
依拠を基礎に置くことで、PCE 3.0 は自分の適用範囲を宣言できます。
PCE 3.0 は、依拠がアクター境界または時間境界を越える場合に適用される。
一人で完結し、誰も後で依拠しない作業に、PCE を適用する必要はありません。逆に、後続が依拠するものを作っているなら、たとえ一人の作業でも PCE の対象です。明日の自分は別のアクターだからです。
- 正規状態への依拠は、進行根拠によって正当化されなければならない。
- 依拠は目的に相対的であり、目的外の依拠は正当化されない。
- 依拠は無効化条件とともに扱う。
- 重要な依拠は依拠グラフに記録し、無効化を伝播できるようにする。
- 検証は依拠を消さず、移し替える。