Multi-Actor Continuation
このページで分かること
Section titled “このページで分かること”- PCE 3.0 がマルチエージェントシステムそのものではない理由
- AI、人間、CI、ポリシー、状態面がそれぞれ何を形成するか
- 依拠は対称で、責任は非対称であること
- Human-in-the-loop(人間参加型)との違い
一文で言うと
Section titled “一文で言うと”PCE 3.0 は、Multi-Agent System(マルチエージェントシステム)ではなく、Multi-Actor Continuation Control(マルチアクター継続制御)である。
マルチエージェントは、複数の AI をどう分担させるかという実行形態です。
PCE 3.0 が扱うのは、その一段外側にある問題です。AI、人間、CI、Policy(ポリシー)、評価系、状態面が同じ遷移に関わるとき、どの候補をどう比較し、どの根拠を揃え、誰の依拠に何を残すかを制御します。
短く言えば、Multi-agent is an execution pattern. Multi-actor continuation is the process model.
マルチエージェントでは足りない理由
Section titled “マルチエージェントでは足りない理由”マルチエージェントという言葉は、主語を AI に置きます。
Planner AgentResearch AgentCoding AgentReviewer AgentQA Agentこの見方は有用です。ただし、実際の仕事では、昇格の根拠を作る材料は AI だけでは揃いません。
- 人間による意図、範囲、リスク受容
- CI によるテスト結果やビルド結果
- ポリシーによる禁止範囲と承認条件
- Review(レビュー)による妥当性確認
- GitHub や Slack に残る合意、依頼、状態変更
- Memory(記憶)へ昇格してよいかの判断
PCE 3.0 は、AI エージェントの群れを作る話ではありません。複数の Actor(アクター)が形成する候補、証拠、意図、リスク受容、記憶を束ね、後続が依拠してよい Responsible Continuation(責任ある継続)を成立させる話です。
依拠は対称、責任は非対称
Section titled “依拠は対称、責任は非対称”PCE 3.0 がすべての参加者を同じ遷移モデルで扱えるのは、依拠がアクターの種類を問わない からです。
コンパイラは不変条件に依拠します。AI は記憶に依拠します。CI はビルド環境に依拠します。人間は仕様に依拠します。依拠する能力に、人間と機械の区別はありません。
しかし、責任は非対称です。AI が実行できても、残るリスクを引き受けられるとは限りません。ツールが評価できても、正規状態への反映を承認できるとは限りません。誰でも依拠はできるが、依拠が裏切られたときに支払える者は限られている。 この対称性と非対称性の組み合わせが、PCE 3.0 のアクターモデルの核です。
アクターが形成するもの
Section titled “アクターが形成するもの”PCE 3.0 では、アクターごとに形成できるものが違うことを明示します。
| 種類 | 主に形成するもの | 例 |
|---|---|---|
| Execution Actor(実行アクター) | 候補、差分、仮説、実装 | AI coder、developer、tool runner |
| Evidence Actor(証拠アクター) | 証拠、検査結果、再現可能な観測 | CI、test runner、linter、eval system |
| Governance Actor(統治アクター) | 意図、権限、リスク受容、承認 | owner、reviewer、domain expert、policy |
| Control Actor(制御アクター) | 分岐、合流、停止、再開、昇格判定 | orchestrator、workflow controller、PCE |
| State / Projection Surface(状態面 / 投影面) | 状態や投影を保持する面 | Issue、PR、Slack thread、ADR、memory store |
State / Projection Surface(状態面 / 投影面)は、常にアクターとは限りません。Issue や PR は状態を保持しますが、それ自体が判断や検査を行うわけではありません。ただし、その面に自動判定、通知、権限行使、状態変更が組み込まれているなら、そこにアクター性があります。
証拠アクターと統治アクターの違いは重要です。証拠アクターが作るものは再導出できます(テストは再実行できる)。統治アクターが作るものは再導出できません(リスク受容は遂行的行為であり、記録だけが根拠です)。
Distributed Warrant Formation
Section titled “Distributed Warrant Formation”PCE 3.0 の重要な見方は、Distributed Warrant Formation(分散的な進行根拠形成)です。
進行根拠は、ひとつの出力から生まれるとは限りません。複数の分岐で作られた候補、投影、証拠、意図が合流して、初めて「この候補のほうがよい」「昇格してよい」と言えることが多い。
AI branch -> candidates / diff / hypothesis
CI branch -> test evidence / build evidence
Human branch -> intent / preference / authority / risk acceptance
Policy branch -> permission / prohibition
Memory branch -> projection candidate
join -> Warrant -> Canonical State(後続が依拠してよいもの)この合流がないまま、AI の出力だけを正規状態へ入れると、候補が事実にすり替わり、後続が不当に依拠します。逆に、合流が設計されていれば、AI の生成は解き放てます。昇格境界が信頼できるからです。
機械同士の依拠連鎖
Section titled “機械同士の依拠連鎖”マルチアクターの見方が最も必要になるのは、人間が見ていない場所です。
エージェントの要約が別のエージェントの記憶に入り、その記憶が第三のエージェントの判断の前提になる。この連鎖の各辺は依拠であり、どこか一箇所でも根拠なき昇格があれば、汚染は連鎖の先まで伝わります。
だから PCE 3.0 は、依拠を辺として記録する 依拠グラフ を扱います。誰が何に依拠しているかが残っていれば、根拠が失効したとき、影響を受ける後続へ無効化を伝播できます。
具体例は One Memory through PCE を参照してください。
Human-in-the-loop との違い
Section titled “Human-in-the-loop との違い”PCE 3.0 では、人間を AI の途中に挟まる存在として見ません。
人間は、AI の出力を止める係でも、最後に目視する係でもありません。人間は、他のアクターと並んで、意図、好み、境界、権限、リスク受容、終了意味を形成するアクターです。
つまり、重要なのは Human-in-the-loop(人間参加型)ではなく、Multi-Actor Branch / Join(マルチアクター分岐と合流)です。
AI が差分を作る。CI が証拠を作る。ポリシーが禁止範囲を示す。人間が意図とリスク受容を形成する。PCE がそれらを合流させ、昇格してよいかを判定する。人間の参加は、常に必要ではありません。ただし、影響の大きい遷移では、誰が残るリスクを引き受けるのかが必要になります。
実務で問うこと
Section titled “実務で問うこと”Multi-Actor Continuation として見ると、実務で問うべきことは変わります。
どのアクターが、どの候補や投影を作るのか。どの候補を比較し、どう改善するのか。どの証拠が揃えば、昇格してよいと言えるのか。どの権限がなければ止めるのか。どの出力を正規状態へ昇格させてよいのか。昇格したものに、誰が依拠するのか。根拠が失効したとき、誰に伝わるのか。何が欠けたら Obstruction とするのか。この問いに答えることで、PCE 3.0 は「AI に作業させる仕組み」ではなく、複数アクターの依拠を統治する制御層になります。