Skip to content

対称的アクター性、非対称的責任

Symmetric actorhood, asymmetric responsibility

PCE 2.0 は、人間・AI・tool・document・policy・registry・runtime などの異種存在を、
process の状態に作用しうる actor として同じ分析平面に置く。
ただし、responsibility bundle の配分は対称だと仮定しない。
とくに goal ownershipapproval authorityevaluation authoritymemory write authorityincident ownership は、
明示的に割り当てられ、必要に応じて非対称に留保されなければならない。

この原理は、
「AI と人間は完全に同じである」
とも、
「AI は単なる受動的な道具である」
とも言いません。

言いたいのはもっと厳密です。

  • actor としては、同じネットワーク上に置く
  • 責任と権限の配分は、同じだと仮定しない

この二つを同時に成立させるのが、PCE 2.0 の立場です。


process-first が主語を process に置き、
responsibility-first が process の内部構造を責任として捉えるなら、
その次に必要になるのは、誰を actor として数え、誰に何を持たせるのか を定義することです。

ここで失敗すると、理論はすぐにどちらかへ崩れます。

actor を人間に限定すると、AI、tool、policy、document、CI、registry が実際に process をどう変えているかを記述できません。

2. 逆に、責任まで平坦化してしまう

Section titled “2. 逆に、責任まで平坦化してしまう”

actor を広げた勢いで、approval、memory promotion、incident ownership まで等しく扱うと、
今度は governance や accountability が消えます。

PCE 2.0 は、この両極を避けます。
そのために必要なのが、対称的アクター性と非対称的責任を分けて考えること です。


「対称的アクター性」とは何か

Section titled “「対称的アクター性」とは何か”

ここでいう対称性は、道徳的な平等や法的地位の平等ではありません。
それは 分析上の対称性 です。

PCE 2.0 における actor とは、次のいずれかを通じて process の状態を変えうる存在です。

  • state を直接変更する
  • 他 actor の visibility を変える
  • 他 actor の capability boundary を変える
  • delta の admissibility や promotion 可否を変える
  • handoff、approval、evaluation、rollback の条件を変える

概念的には、次のように書けます。

actor(x) iff x can, directly or structurally,
change process state,
change another actor's visible state,
change another actor's capability boundary,
or change the admissibility/promotion of a delta

この定義に立つと、actor は人間に限りません。

少なくとも、次は actor として扱われます。

  • 人間
  • AI agent
  • subagent
  • tool
  • CI / evaluator
  • document / spec / ADR
  • prompt / policy
  • registry
  • identity / permission system
  • approval gate
  • runtime / checkpoint system
  • memory store

ここで重要なのは、
actor であることは、意識や人格を持つことを意味しない
という点です。

PCE 2.0 における actorhood は、
「process を変えうるか」という存在論的・操作的な基準で定義されます。


一方、責任は actorhood と同じではありません。

PCE 2.0 で問題にしているのは、
誰が process に参与しているかだけではなく、
誰が何を引き受けているかです。

責任は、少なくとも次のような束として分解されます。

  • goal_ownership
  • execution
  • capability_authority
  • approval_authority
  • evaluation_authority
  • memory_write_authority
  • incident_ownership

これが Responsibility Bundle です。

ここでの原則は単純です。

actor であることは、責任を等しく持つことを意味しない。
process に参与していることは、approval や ratification の権限を持つことを意味しない。

つまり、PCE 2.0 は
actorhood と responsibility を直結させない
理論です。


この原理の核心は、対称性が一つではないと見ることです。

ここでは、異種存在を同じ process network 上の actor として扱います。
関心は、「誰が状態を変えるか」「どこで translation が起きるか」にあります。

ここでは、責任・権限・帰責・承認・記憶更新を区別して配分します。
関心は、「誰が引き受けるか」「誰が確定できるか」「誰が止められるか」にあります。

PCE 2.0 は、この二つを意図的にずらして保持します。

分析平面:
human / AI / tool / document / policy / registry
└─ いずれも actor として扱う
責任平面:
goal ownership / approval / evaluation / memory writing / incident ownership
└─ 明示的に配分し、対称だと仮定しない

このずれがあるからこそ、
AI を actor として真面目に扱いながら、
同時に governance も保持できます。


ANT をどう継承し、どこで離れるのか

Section titled “ANT をどう継承し、どこで離れるのか”

PCE 2.0 は、ANT 的な見方をかなり強く継承します。

  • 人間だけが能動的主体だとはみなさない
  • document、tool、AI、policy も process を変える存在として扱う
  • 開発を異種アクターの network と translation の連鎖として見る

PCE 2.0 は、分析上の対称性をそのまま責任の対称性へ延長しません。

つまり、

  • actor として同じ平面に置く
  • しかし approval、memory promotion、incident ownership まで同等だとは言わない

という立場を取ります。

この意味で、PCE 2.0 は
ANT 的ネットワーク観 + 明示的な責任配分モデル
として理解できます。


この原理を採用するなら、少なくとも次の規則が必要です。

process を実際に変えている存在は、理論上も actor として見えるようにしなければなりません。
「人間と AI だけ」を書いて、policy、registry、approval gate、CI を見えなくしてはなりません。

process に参与していることだけでは、approval authority や memory write authority は得られません。
参与と権限は別です。

AI が actor であることを理由に、goal ownership や incident ownership まで自動的に等しいとみなしてはなりません。
対称性は分析上のものであって、自動的な制度上の対称性ではありません。

「システムがやった」「AI がやった」で責任が消えてはなりません。
実行主体が非人間であっても、bundle の配分と帰責の所在は明示される必要があります。

actor の範囲を広げるなら、それに応じて governance surface も明示しなければなりません。
広い actorhood と弱い governance の組み合わせは、PCE 2.0 では不安定です。

6. No memory promotion without explicit authority

Section titled “6. No memory promotion without explicit authority”

どの actor が durable state を更新できるのかは、明示的でなければなりません。
actorhood だけでは、memory promotion の権限は導けません。


この原理を採用すると、各概念の関係は次のようになります。

その存在が process に作用しうるなら、actor として数えます。

その actor に何を引き受けさせるかは、別途定義されます。

どの actor に何を見せるかは、actorhood だけでは決まりません。
その actor の responsibility bundle によって決まります。

actorhood が広がるほど、
誰が何を許可し、どこで止め、何を監査するかが重要になります。

この関係を順番で書くと、次のようになります。

actorhood
→ responsibility allocation
→ capability / authority scoping
→ actor-local context compilation
→ execution / approval / evaluation
→ delta promotion or rejection

つまり、symmetric actorhood, asymmetric responsibility は、
Responsibility-first
Actor-local Compiled Context のあいだを接続する原理です。


1. actor model は人間 / AI 二元論を超える

Section titled “1. actor model は人間 / AI 二元論を超える”

PCE 2.0 は、人間と AI だけの図式に閉じません。
tool、document、policy、registry、runtime を含む network として設計します。

2. context は actor ごとに分化する

Section titled “2. context は actor ごとに分化する”

同じ process でも、actor が違えば局所視界は違います。
違いを生むのは actorhood だけではなく、その actor の責任です。

3. governance は付属機能ではなく中核になる

Section titled “3. governance は付属機能ではなく中核になる”

approval、capability scope、memory promotion、incident ownership は、
actorhood の広がりに対する後付けの安全装置ではありません。
最初から process 設計の中核です。

4. AI を「ただの道具」としては扱わない

Section titled “4. AI を「ただの道具」としては扱わない”

AI agent は execution、analysis、replan、candidate evaluation の actor になりえます。
だからこそ、その責任境界を曖昧にしてはなりません。

5. 人間を「唯一の実行者」としても扱わない

Section titled “5. 人間を「唯一の実行者」としても扱わない”

人間は actor の一種であって、常に execution を担う必要はありません。
ただし、どの責任を保持するかは明示しなければなりません。


この原理は、いくつかの誤読を避ける必要があります。

「人間と AI はまったく同じ存在である」を意味しない

Section titled “「人間と AI はまったく同じ存在である」を意味しない”

PCE 2.0 は、法的・道徳的・制度的な同一性を主張しません。
同じなのは、process を変える actor として同じ分析平面に置くことだけです。

「すべての最終責任は常に人間に固定される」を意味しない

Section titled “「すべての最終責任は常に人間に固定される」を意味しない”

重要なのは、人間固定ではなく明示的配分です。
非対称性は必要ですが、その形は process ごとに設計されます。

「AI は責任を持てないから理論上も周辺である」を意味しない

Section titled “「AI は責任を持てないから理論上も周辺である」を意味しない”

actorhood と responsibility を分けることで、
AI を process の中心的 actor として扱いつつ、責任配分を別に設計できます。

「対称性があるなら governance は不要」を意味しない

Section titled “「対称性があるなら governance は不要」を意味しない”

むしろ逆です。
actorhood が広いからこそ、governance surface が重要になります。


逆に、この原理が拒否するもの

Section titled “逆に、この原理が拒否するもの”

「非人間は全部ただの道具である」

Section titled “「非人間は全部ただの道具である」”

これでは、tool、policy、registry、runtime が process をどう拘束・変形しているかが見えません。

「actor なら責任も同じである」

Section titled “「actor なら責任も同じである」”

これでは、approval、memory promotion、incident ownership の区別が消えます。

「責任は最後に人間へ全部押し戻せばよい」

Section titled “「責任は最後に人間へ全部押し戻せばよい」”

これでは、途中の capability、authority、handoff、approval の設計が空洞化します。

「AI がやったので誰の責任でもない」

Section titled “「AI がやったので誰の責任でもない」”

これは PCE 2.0 が最も強く拒否する立場の一つです。
非人間 actor の導入は、責任の消失ではなく、責任配分の精密化を要求します。


ある feature delivery を考えます。

そこには次の actor がいるとします。

  • 人間の product owner
  • coding agent
  • read-only analysis subagent
  • CI evaluator
  • approval gate
  • memory writer
  • policy / registry

PCE 2.0 では、これらをすべて actor として数えます。
なぜなら、いずれも process の状態や進行条件を変えるからです。

しかし、責任は同じにはしません。

  • product owner が goal ownership
  • coding agent が execution
  • approval gate と approver が approval authority
  • CI evaluator が限定的な evaluation authority
  • memory writer が memory write authority
  • incident owner が incident ownership

を持つかもしれません。

ここで重要なのは、
coding agent が中心的 actor であっても、
それだけで approval authority や incident ownership を持つとは限らないことです。

逆に、approval gate は execution をしなくても process に強く作用します。
つまり、中心的な actor と、最終的な責任主体は一致しなくてよいのです。


ある設計がこの原理を満たしているかは、次で点検できます。

  1. process を変えている非人間 actor が、理論上も actor として数えられているか
  2. actorhood と responsibility が混同されていないか
  3. approval、evaluation、memory promotion、incident ownership の所在が明示されているか
  4. AI や tool の中心性を認めつつ、authority が無制限に推定されていないか
  5. governance surface が actor の広がりに見合って設計されているか
  6. 「AI がやった」で責任が蒸発していないか

このどれかが欠けるなら、
その設計はまだ symmetric actorhood, asymmetric responsibility ではありません。


この原理は、少なくとも次と一体で読む必要があります。

また、概念としては次に接続します。


この原理が言っていることは、最終的には次の一文に集約できます。

PCE 2.0 は、人間だけでなく AI、tool、document、policy、registry を process の actor として扱う。
しかし、approval、memory promotion、incident ownership を含む責任配分は自動的には平等化しない。
actorhood の対称性と responsibility の非対称性を同時に保持することが、AI 時代の開発を記述するために必要である。

このずれを保つことによって、PCE 2.0 は
AI を真面目な actor として扱いながら、
同時に governance と accountability も失わない。